第1章 肥満とは何か?|医学的視点から理解する

目次

はじめに

こんにちは、高血圧といびきの内科 神保町駅前の理事長の鎌形博展です。神保町院では院長の山須田医師が、毎日多くの患者さんの体重管理をサポートしています。

「先生、本当に痩せられますか?」

診察室でよく聞かれるこの質問に、私はいつもこう答えます。「科学的に正しい方法で取り組めば、必ず結果は出ます」

残念ながら、世の中には科学的根拠のない「魔法のダイエット法」があふれています。一時的に体重が減っても、すぐにリバウンドしてしまう。そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。

本書では、医学的に正しい肥満の知識と、科学的に効果が証明されている体重管理の方法をお伝えします。難しい医学用語はできるだけ避け、日常生活に取り入れやすい実践的なアドバイスを心がけました。

肥満は「見た目の問題」ではなく、さまざまな健康リスクをもたらす医学的な状態です。適切な知識と方法で対処すれば、健康的に改善できます。一緒に、科学に基づいた肥満解消の旅を始めましょう。

目次

第1章 肥満とは何か?〜医学的視点から理解する

  • 肥満の定義と診断基準
  • 内臓脂肪と皮下脂肪の違い
  • 肥満が引き起こす健康リスク
  • 肥満の主な原因

第2章 科学的なダイエットの基本原則

  • カロリー制限と糖質制限の比較
  • 必要な栄養素バランス
  • 間欠的断食の可能性
  • 食習慣の見直し方

第3章 食事で肥満を解消する

  • おすすめの食事法
  • 食材の選び方
  • 太りにくい調理法
  • 簡単ヘルシーレシピ

第4章 効果的な運動法

  • 脂肪燃焼を促す運動の仕組み
  • ウォーキングの正しい方法
  • 筋トレの基本
  • 継続するためのコツ

第5章 生活習慣と肥満の深い関係

  • 睡眠と体重管理
  • ストレスと食欲のメカニズム
  • 食欲をコントロールする方法
  • 行動変容のポイント

第6章 医療機関での肥満治療

  • 肥満外来での治療内容
  • 最新の肥満治療薬
  • 外科的治療の選択肢
  • 医療機関を受診するタイミング

第7章 健康的な体重を維持するために

  • リバウンドを防ぐ方法
  • 長期的な成功のための習慣
  • 困ったときの対処法
  • 肥満と上手に付き合う心構え

肥満の定義と診断基準

「先生、私は肥満なんでしょうか?」

これは診察室でよく受ける質問です。多くの方が「見た目」や「体重計の数字」だけで自分が肥満かどうかを判断していますが、医学的には明確な基準があります。

肥満とは、単に「太っている」ということではありません。世界保健機関(WHO)では「健康を損なうほどに体内に脂肪が過剰に蓄積した状態」と定義しています。つまり、見た目ではなく健康リスクに焦点を当てた概念なのです。

では、具体的にどう判断するのでしょうか?最もよく使われる指標は「BMI(Body Mass Index:体格指数)」です。

BMIの計算方法

BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)

例えば、身長170cm、体重70kgの方のBMIは、 70 ÷ 1.7 ÷ 1.7 = 24.2 となります。

日本肥満学会の基準では、BMIが25以上で「肥満」と判定されます。

  • 18.5未満:低体重(やせ)
  • 18.5~25未満:普通体重
  • 25~30未満:肥満(1度)
  • 30~35未満:肥満(2度)
  • 35~40未満:肥満(3度)
  • 40以上:肥満(4度)

なぜ日本の基準は25なの? 欧米では30以上を肥満としていますが、日本を含むアジア人は同じBMI値でも欧米人より体脂肪率が高い傾向があるため、日本では25以上を肥満としています。これは人種による体格の違いを考慮した科学的判断です。

ただし、BMIだけでは不十分な場合もあります。例えば、筋肉量の多いアスリートはBMIが高くなりがちですが、健康リスクは低いでしょう。そこで、他の指標も併用します。

体脂肪率 体組成計などで測定できる体脂肪率も重要な指標です。

  • 男性:22%以上で肥満傾向、25%以上で肥満
  • 女性:30%以上で肥満傾向、35%以上で肥満

お腹周り(腹囲) 内臓脂肪の蓄積を反映する指標として、おへその高さでのウエスト周囲径も測定します。

  • 男性:85cm以上
  • 女性:90cm以上

これらの数値が基準を超えると、メタボリックシンドロームなどの健康リスクが高まります。

「でも先生、BMIが25未満でも、お腹だけぽっこり出ていて気になります…」

このようなお悩みをよく伺います。実は、BMIが標準でもお腹周りが基準値を超えている「隠れ肥満」の方も少なくありません。特に中年以降は筋肉量が減り、脂肪割合が増えやすいので注意が必要です。

肥満かどうかの判断は、単なるレッテル貼りではなく、健康リスクを評価するためのものです。自分の状態を正しく知ることが、健康管理の第一歩となります。

内臓脂肪と皮下脂肪の違い

「お腹の脂肪を何とかしたいのですが、どうすればいいでしょうか?」

このご質問には、まず「どんな脂肪なのか」を考える必要があります。脂肪には大きく分けて「内臓脂肪」と「皮下脂肪」の2種類があり、健康への影響も減らし方も異なるからです。

内臓脂肪と皮下脂肪、見分け方は?

簡単に言うと、内臓脂肪はお腹の内側、内臓の周りにつく脂肪です。一方、皮下脂肪は皮膚の下につく脂肪です。一般的には、お腹がかたく、ぽっこりと前に出ているタイプ(リンゴ型肥満)は内臓脂肪型、お腹がやわらかく、ウエストからお尻や太ももにかけて脂肪がついているタイプ(洋ナシ型肥満)は皮下脂肪型と考えられます。

なぜ内臓脂肪が危険なのか?

内臓脂肪は単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。実は、活発に働く「内分泌器官」のような役割を持ち、様々な物質を分泌しています。問題なのは、内臓脂肪が増えると炎症性物質などの悪玉物質が多く出るようになり、全身に悪影響を及ぼすことです。

内臓脂肪が増えると起こりうる問題:

  • インスリン抵抗性(血糖値を下げにくくなる)
  • 血圧上昇
  • 血液中の中性脂肪増加、善玉コレステロール減少
  • 慢性的な炎症状態

これらが重なると、糖尿病や心臓病、脳卒中などの深刻な病気のリスクが大きく高まります。

一方、皮下脂肪は内臓脂肪ほど活発ではなく、主にエネルギー貯蔵の役割を担っています。もちろん過剰な皮下脂肪も健康上の問題を引き起こしますが、同じ量なら内臓脂肪のほうがリスクは高いと言えます。

驚きの事実:内臓脂肪は減りやすい!

心配になるかもしれませんが、実は朗報があります。内臓脂肪は皮下脂肪より代謝が活発で、適切な生活習慣の改善で比較的短期間に減らすことができるのです。

「患者さんの多くは、食事と運動を見直して3ヶ月も経つと、CTで見る内臓脂肪面積が20〜30%も減っていることがあります。それに伴って血液検査の値も改善することが多いんですよ」

一方、皮下脂肪は時間をかけてゆっくり減らしていくものと心得ましょう。

内臓脂肪をチェックする方法

内臓脂肪を正確に測定するには、CT検査やMRI検査が必要ですが、日常的には「お腹周り(腹囲)」の測定が簡便で有用です。おへその高さで測定し、男性85cm以上、女性90cm以上であれば内臓脂肪型肥満の可能性があります。

また、最近では体組成計の中に内臓脂肪レベルを推定できるものもあります。

「お腹の脂肪」と一口に言っても、その種類によって健康への影響も対策も変わってきます。まずは自分がどのタイプかを知り、適切なアプローチを選ぶことが大切です。

肥満が引き起こす健康リスク

「太っているだけなら、健康に問題はないのでは?」

こう考える方もいらっしゃいますが、医学的に見ると肥満は様々な健康リスクを高める状態です。特に内臓脂肪型肥満は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれ、気づかないうちに全身の健康を蝕んでいきます。

では具体的にどんなリスクがあるのでしょうか?

心臓・血管系の病気

肥満は心臓や血管に大きな負担をかけます。

  • 高血圧: 余分な脂肪組織に血液を送るため、心臓はより強く血液を押し出す必要があります。また内臓脂肪から出る物質が血管を収縮させる作用も。BMIが5増えるごとに、高血圧リスクは約40%上昇します。
  • 心臓病: 冠動脈疾患や心不全などのリスクが上昇します。肥満の方は心臓病で亡くなるリスクが約1.5倍になるというデータもあります。
  • 脳卒中: 高血圧と肥満が重なると、脳卒中リスクは大幅に上昇します。

ある60歳の患者さんは、長年の肥満を放置した結果、突然の胸痛で救急搬送されました。冠動脈の狭窄が見つかり、ステント治療が必要になりました。「もっと早く体重を気にしていれば…」と後悔されていました。

代謝系の異常

肥満は体の代謝機能にも大きな影響を与えます。

  • 2型糖尿病: 肥満、特に内臓脂肪の増加はインスリン抵抗性を引き起こし、2型糖尿病の最大のリスク因子です。BMIが30以上の方は、標準体重の方と比べて糖尿病リスクが7倍以上になるというデータもあります。
  • 脂質異常症: 悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪の上昇、善玉コレステロール(HDL)の低下が起こりやすくなります。
  • 脂肪肝: アルコールを飲まなくても、内臓脂肪の増加により肝臓に脂肪が蓄積する「非アルコール性脂肪肝」が増えています。進行すると肝硬変や肝がんのリスクも。

診察室で「先生、健康診断で肝機能の数値が悪いと言われました。でもお酒はほとんど飲まないんです」というお話をよく伺います。これは脂肪肝の典型的なサインです。

その他の健康問題

肥満の影響は全身に及びます。

  • 睡眠時無呼吸症候群: のどの周りに脂肪がつくことで気道が狭くなり、睡眠中に呼吸が止まる状態に。日中の強い眠気や集中力低下の原因になります。
  • 関節の問題: 膝や腰への負担が増大し、変形性関節症や腰痛のリスクが高まります。
  • がんリスクの上昇: 肥満は複数のがん(大腸がん、乳がん、子宮体がん、腎臓がんなど)のリスクを高めることが分かっています。
  • 生殖機能への影響: 女性では排卵障害や不妊、男性ではテストステロン低下などが起こることがあります。
  • 新型コロナウイルス感染症: 最近の研究では、肥満の方は新型コロナウイルスに感染した際に重症化リスクが高いことも分かってきました。

肥満が引き起こす健康リスクは、時に命に関わる深刻なものです。しかし朗報もあります。体重の5〜10%減量でも、これらのリスクは大幅に低減することが研究で示されています。

例えば、体重80kgの方なら4〜8kgの減量で、糖尿病リスクが約60%も低下するというデータもあります。

肥満の健康リスクを知ることは怖いかもしれませんが、これを改善への動機づけにしていただければと思います。次の項目では、なぜ肥満になるのか、その原因について解説します。

肥満の主な原因

「なぜ太ってしまうのでしょうか?単に食べ過ぎなのでしょうか?」

肥満の原因は「食べ過ぎと運動不足」だけではありません。様々な要因が複雑に絡み合っています。自分に当てはまる原因を知ることで、効果的な対策を立てることができます。

エネルギーバランスの崩れ

基本的には、摂取エネルギー(食事から取るカロリー)が消費エネルギー(基礎代謝+活動で使うカロリー)を上回ると、余ったエネルギーが脂肪として蓄積されます。しかし、このバランスを崩す要因は多岐にわたります。

現代の食生活の問題

  • 高カロリー食品の普及: コンビニ食やファストフードなど、手軽で高カロリーな食品があふれています。日本人の脂肪摂取量は50年前の約2倍になっています。
  • 大きくなる食品サイズ: レストランの一人前やお菓子の一袋のサイズが年々大きくなっています。同じ「一人前」と思っても、実際のカロリーは増えていることも。
  • 食の外部化: 家庭での手作り料理が減り、カロリー計算が難しい外食や中食が増えています。
  • 食べる速さ: 早食いの習慣がある人は、満腹ホルモンが分泌される前に必要以上に食べてしまいがちです。

身体活動量の激減

  • 交通手段の発達: 車や電車の普及で歩く機会が減っています。50年前と比べて、日本人の歩数は約2000歩/日も減少しました。
  • デスクワークの増加: 座っている時間が長くなり、消費カロリーが減少しています。
  • 家電の普及: 掃除機や洗濯機などの普及で、家事での消費カロリーも減っています。
  • スクリーンタイムの増加: テレビやスマホ、ゲームなど画面を見ている時間が増え、座位時間が長くなっています。

生物学的・遺伝的要因

  • 遺伝の影響: 研究によれば、BMIの個人差の約40-70%は遺伝的要因によるものと考えられています。「太りやすい体質」は実際に存在するのです。
  • ホルモンバランス: 甲状腺機能低下症やインスリン抵抗性など、ホルモンの問題で基礎代謝が落ちたり、脂肪が蓄積されやすくなったりすることがあります。
  • 腸内細菌叢: 最近の研究では、腸内の細菌バランスが肥満と関連していることが分かってきました。

心理社会的要因

  • ストレス: ストレスを感じると、コルチゾールというホルモンが分泌され、特に内臓脂肪の蓄積を促します。また「ストレス食い」も問題です。
  • 睡眠不足: 睡眠が足りないと、食欲を調節するホルモンのバランスが崩れ、特に高糖質・高脂肪食品への欲求が高まります。毎晩1時間の睡眠不足で、肥満リスクが約8%上昇するというデータもあります。
  • 感情と食行動: 悲しい、寂しい、退屈などの感情を、食べることで紛らわす「感情的摂食」も肥満の一因になります。

その他の要因

  • 薬剤の影響: 向精神薬やステロイドなど、体重増加を起こしやすい薬があります。
  • 年齢: 加齢とともに基礎代謝が低下し、筋肉量も減少するため、若い頃と同じ食事をしていても太りやすくなります。30代以降、1年に基礎代謝は約1%ずつ低下するとされています。
  • 社会経済的要因: 健康的な食品へのアクセスや運動環境なども影響します。

肥満の原因は一人ひとり異なります。食べ過ぎだけを責めるのではなく、多角的に要因を探ることが大切です。

「ある患者さんは、仕事のストレスで夜食が増え、睡眠時間も減って悪循環に陥っていました。ストレス管理と睡眠の改善に焦点を当てたところ、食習慣も自然と改善し、3ヶ月で4kg減量に成功されました」

自分の肥満の原因を「自己責任」と決めつけず、様々な要因から冷静に分析してみましょう。そうすることで、より効果的な対策が見えてきます。

監修

鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

専門科目 救急・地域医療

所属・資格

  • 日本救急医学会
  • 日本災害医学会所属
  • 社会医学系専門医指導医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
  • ICLSプロバイダー(救命救急対応)
  • ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
  • Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
  • FCCSプロバイダー(集中治療対応)
  • MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

メディア出演

  • フジテレビ 『イット』『めざまし8』
  • 共同通信
  • メディカルジャパン など多数

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