『② 高血圧と運動|血圧を下げるための正しい運動習慣』
はじめに
こんにちは、院長の山須田です。「運動は健康にいい」というのは誰もが知っていることですが、特に高血圧の方にとって、適切な運動は薬に匹敵する効果を発揮することをご存知でしょうか。実際、定期的な運動習慣は血圧を平均で5〜8mmHg低下させるとされ、これは一部の降圧薬と同等の効果があります。
しかし、「どんな運動を」「どのくらいの強さで」「どれくらいの頻度で」行えばよいのか、具体的にご存知の方は少ないかもしれません。また、高血圧の程度によっては、避けるべき運動もあります。
この記事では、高血圧を専門とする医師の立場から、血圧を下げるための効果的な運動方法と、安全に継続するためのコツをお伝えします。適切な運動習慣を身につけて、薬に頼りすぎない健康的な血圧管理を目指しましょう。
目次
- 運動はなぜ高血圧に効果的なのか?
- 運動が血圧を下げるメカニズム
- 有酸素運動 vs. 無酸素運動 どちらが効果的?
- 高血圧におすすめの運動メニュー
- ウォーキングの効果と正しいやり方
- 筋トレと血圧の関係|適切な強度とは?
- ストレッチ・ヨガで血圧をコントロール
- 高血圧の重症度別の運動メニュー
- 軽症・中等症・重症それぞれに適した運動
- 注意すべき運動の禁忌事項
- 運動を継続するためのコツ
- 毎日の運動習慣を作る方法
- 血圧管理に役立つフィットネスアプリ
運動はなぜ高血圧に効果的なのか?
運動が血圧を下げるメカニズム
運動が血圧を下げるメカニズムはいくつか考えられています。主なものとして以下が挙げられます。
血管への直接的な効果
- 定期的な運動は血管内皮機能を改善し、一酸化窒素(NO)の産生を促進します。NOは血管を拡張させる物質で、血圧を下げる働きがあります。
- 運動によって血管の弾力性が高まり、血管が硬くなることによる血圧上昇を防ぎます。
交感神経系への効果
- 運動を継続すると交感神経系の過剰な活動が抑制され、安静時の心拍数が低下します。
- アドレナリンなどの昇圧ホルモンの分泌が減少し、血管収縮が緩和されます。
代謝への効果
- 体重減少や内臓脂肪の減少により、インスリン抵抗性が改善します。
- 血糖値やコレステロール値が改善することで、血管の健康状態が保たれます。
腎臓への効果
- 運動によって腎臓の機能が改善し、ナトリウム(塩分)排出能力が高まります。
- 体内の余分な水分が減少することで血液量が適正化され、血圧が下がります。
運動による血圧低下効果は、単回の運動後に現れる「急性効果」と、継続的な運動習慣によって得られる「慢性効果」の2種類があります。
急性効果(一過性の効果)
- 運動直後から数時間、血圧が一時的に下がる現象(ポストエクササイズ・ハイポテンション)
- 特に高血圧の方でこの効果が顕著に現れます
- 中等度の運動では、運動後に最大で5〜7mmHg程度血圧が下がるとされています
慢性効果(長期的な効果)
- 週3回以上、少なくとも8週間以上継続することで見られる効果
- 収縮期血圧で平均5〜8mmHg、拡張期血圧で平均4〜6mmHgの低下
- この効果は、一部の降圧薬と同等の効果があります
有酸素運動 vs. 無酸素運動 どちらが効果的?
高血圧の方にとって、有酸素運動と無酸素運動、どちらが効果的なのでしょうか。
有酸素運動(aerobic exercise)
- 歩行、ジョギング、サイクリング、水泳など酸素を使って行う持続的な運動
- 心肺機能を高め、全身の血行を促進する効果がある
- 高血圧には最も推奨される運動タイプ
- 長時間持続的に行うことで脂肪燃焼効果も高い
無酸素運動(anaerobic exercise)
- 筋力トレーニング、短距離走、重量挙げなど高強度で短時間の運動
- 筋肉量を増やし、基礎代謝を上げる効果がある
- 高強度では一時的に血圧が上昇するため、高血圧の方は注意が必要
最新のエビデンス 最近の研究では、有酸素運動のみならず、適切な強度の筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)も高血圧改善に効果があることがわかってきました。2017年のアメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインでも、有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせが推奨されています。
効果的な組み合わせ方
- 有酸素運動を中心に据える(週150分以上)
- 中〜低強度の筋力トレーニングを週2〜3回取り入れる
- ストレッチングやヨガで柔軟性を高める
- 起床後や就寝前に軽い運動を取り入れる
こうした「複合的な運動プログラム」が、高血圧管理には最も効果的と言われています。
高血圧におすすめの運動メニュー
ウォーキングの効果と正しいやり方
ウォーキングは最も手軽で、かつ効果的な有酸素運動です。特別な道具や技術を必要とせず、時間や場所を選ばず実践できるため、継続しやすいという大きなメリットがあります。
ウォーキングの効果
- 収縮期血圧を平均5〜6mmHg、拡張期血圧を2〜3mmHg低下させる効果
- 体重コントロールによる間接的な血圧低下効果
- 心肺機能の向上
- ストレス軽減効果
- 睡眠の質の改善
正しいウォーキングの方法
- 姿勢
- 背筋を伸ばし、顎を引いて遠くを見る姿勢を保つ
- 自然に腕を振り、歩幅はやや広めにとる
- かかとから着地し、指先で地面を蹴るようにして歩く
- 強度
- 「ややきつい」と感じる程度(心拍数の目安:最大心拍数の50〜70%)
- 会話ができる程度の息切れ(「会話テスト」で確認)
- 最大心拍数の目安:220−年齢
- 時間と頻度
- 1回20〜60分
- 週3〜5日以上
- 1日10分×3回などの分割も効果あり
- 進め方
- 最初の5分はゆっくり歩いてウォームアップ
- 徐々にペースを上げて本調子のペースで歩く
- 最後の5分はペースを落としてクールダウン
ウォーキングのアレンジ法
- インターバルウォーキング:3分普通に歩いた後、3分速く歩くを繰り返す
- ノルディックウォーキング:専用のポールを使って全身の筋肉を使う歩き方
- 水中ウォーキング:関節への負担が少なく、膝や腰に問題がある方に最適
筋トレと血圧の関係|適切な強度とは?
筋力トレーニングは、適切な強度で行えば血圧を下げる効果があります。特に加齢に伴う筋肉量減少(サルコペニア)予防の観点からも重要です。
筋トレの血圧への効果
- 軽〜中等度の筋トレは長期的に収縮期血圧を2〜4mmHg、拡張期血圧を2〜3mmHg低下
- 基礎代謝の向上による体重管理効果
- インスリン感受性の改善
- 日常生活動作の維持・改善
高血圧の方に適した筋トレの強度
- 最大筋力の30〜50%程度の負荷
- 1セット10〜15回程度繰り返せる重さ
- 「きつい」と感じない程度
- 呼吸を止めない(バルサルバ効果を避ける)
おすすめの筋トレメニュー
- 自重トレーニング(道具不要)
- スクワット(壁につかまって行う方法も安全)
- 膝つき腕立て伏せ
- 椅子から立ち上がる運動
- かかと上げ
- 軽い重りを使ったトレーニング
- ダンベルカール(二頭筋の強化)
- ダンベルショルダープレス(肩の強化)
- ダンベルロウ(背中の強化)
- レッグエクステンション(太ももの強化)
筋トレの注意点
- 息を止めながら力むのは避ける(血圧が急上昇する)
- ゆっくりとした動作で行う
- 常に呼吸を意識する(力を入れるときに息を吐く)
- 最初は専門家の指導を受けることが望ましい
- トレーニング中の異常(めまい、胸痛など)があれば即座に中止
ストレッチ・ヨガで血圧をコントロール
ストレッチやヨガは、筋肉の柔軟性を高めるだけでなく、リラックス効果やストレス軽減効果があります。これらの運動も血圧を下げる効果が期待できます。
ストレッチの効果
- 血管の柔軟性向上による血圧低下
- 心拍数の低下
- 全身の緊張緩和
- 睡眠の質の改善
- 他の運動前後のケガ予防
おすすめのストレッチ(1つのポーズを15〜30秒保持)
- 首・肩のストレッチ
- 胸の開きストレッチ
- ふくらはぎのストレッチ
- もも裏(ハムストリング)のストレッチ
- 体側のストレッチ
ヨガの血圧への効果
- 平均で収縮期血圧4〜5mmHg、拡張期血圧3〜4mmHgの低下
- 副交感神経の活性化によるリラックス効果
- 呼吸法による自律神経のバランス調整
- 心身のストレス軽減
高血圧の方におすすめのヨガポーズ
- 猫のポーズ(背中の緊張緩和)
- 子どものポーズ(全身リラックス)
- 脚を壁に上げるポーズ(血流改善)
- 座位前屈(リラックス効果)
- 仰向けのねじりのポーズ(内臓機能活性化)
ヨガ実践の注意点
- 初心者は必ず資格を持ったインストラクターの指導で行う
- 頭を下げる姿勢は避ける(血圧上昇の可能性)
- 呼吸を止めない
- 無理な姿勢はとらない
- 体調が優れないときは控える
高血圧の重症度別の運動メニュー
軽症・中等症・重症それぞれに適した運動
高血圧の程度によって、適切な運動の種類や強度は異なります。まずは自分の血圧値を正確に把握しましょう。
血圧の分類(診察室血圧)
- 正常: 130/85 mmHg未満
- 正常高値: 130-139/85-89 mmHg
- I度高血圧: 140-159/90-99 mmHg
- II度高血圧: 160-179/100-109 mmHg
- III度高血圧: 180/110 mmHg以上
重症度別の運動推奨
- 正常高値〜I度高血圧(軽症)
- ほぼすべての有酸素運動が推奨される
- 中等度の筋力トレーニングも可能
- 運動時間:1日30〜60分
- 頻度:週5〜7日
- 強度:最大心拍数の50〜70%
- 例:ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、ダンス、テニスなど
- II度高血圧(中等症)
- まずは薬物治療と低強度の有酸素運動から始める
- 運動時間:1日20〜30分から徐々に増やす
- 頻度:週3〜5日
- 強度:最大心拍数の40〜60%
- 例:ウォーキング、軽い水中運動、サイクリング
- 注意:まずは血圧をコントロールしてから運動強度を上げる
- III度高血圧(重症)
- まず薬物治療によって血圧を下げることが最優先
- 降圧薬で血圧が安定してから、医師の指導のもとで運動を開始
- 運動時間:1日10〜15分から徐々に増やす
- 頻度:週3日から始める
- 強度:最大心拍数の30〜50%(非常に軽い運動)
- 例:ゆっくりとした歩行、軽いストレッチ
- 注意:必ず医師の許可と指導を受ける
臓器障害や合併症がある場合
- 心疾患、脳血管障害、腎機能障害、網膜症などの合併症がある場合は、それぞれの状態に合わせた運動処方が必要です
- 必ず専門医に相談してから運動を始めましょう
- 場合によっては運動負荷試験を受けることも推奨されます
注意すべき運動の禁忌事項
高血圧の方が避けるべき運動や状況があります。安全に運動を続けるために、以下の点に注意しましょう。
避けるべき運動タイプ
- 高強度の無酸素運動(重量挙げ、スプリントなど)
- 等尺性(アイソメトリック)運動(力を入れたまま姿勢を保持する運動)
- 強い力みを伴う運動(重い物を持ち上げるなど)
- 頭を下げる姿勢が長く続く運動(逆立ちなど)
- 水中での息こらえを伴う運動(潜水など)
避けるべき状況
- コントロール不良の高血圧(180/110 mmHg以上)
- 急激な運動開始と中止(ウォームアップとクールダウンを必ず行う)
- 極端に暑い・寒い環境(温度変化による血圧変動が大きくなる)
- 食後すぐの運動(消化器系に血液が集中するため)
- アルコール摂取後の運動(脱水や不整脈のリスク)
運動中に以下の症状が出たらすぐに中止
- 胸痛・胸部圧迫感
- 激しい息切れ・呼吸困難
- めまい・ふらつき
- 吐き気
- 冷や汗
- 不整脈(脈の乱れ)
- 極度の疲労感
運動前のチェックポイント
- その日の血圧値を確認する
- 十分な水分補給をしておく
- 適切な服装と靴を着用する
- 薬の服用タイミングと運動のタイミングを考慮する
- 体調不良時は無理をしない
運動を継続するためのコツ
毎日の運動習慣を作る方法
運動の効果を得るためには継続が何よりも重要です。以下のポイントを参考に、長続きする運動習慣を作りましょう。
目標設定のコツ
- 具体的で現実的な目標を立てる(例:「毎日15分歩く」)
- 短期・中期・長期の目標をバランスよく設定する
- 健康状態の改善を目標にする(体重より血圧の改善を重視)
- 達成可能な小さな目標から始める
習慣化のテクニック
- 時間を決める:毎日同じ時間に運動することで習慣化しやすくなる
- 環境を整える:運動しやすい環境を作る(靴や服をすぐ取り出せるようにするなど)
- トリガーを設定:「朝食後に」「テレビを見る前に」など、生活の流れに組み込む
- 記録をつける:カレンダーやアプリで運動記録をつけ、視覚化する
- 仲間を作る:一緒に運動する仲間がいると続きやすい
モチベーション維持の工夫
- 運動の多様性を持たせる(同じ運動に飽きないよう変化をつける)
- 小さな成功を祝う(1週間続けたら自分へのご褒美を)
- 血圧や体調の変化を記録して効果を実感する
- 運動を楽しむ工夫をする(好きな音楽を聴きながらなど)
- 自分に合った運動を見つける(苦痛に感じる運動は長続きしない)
運動の継続を妨げる障壁への対処法
- 「時間がない」: 短時間でもコンスタントに行う(10分×3回など)
- 「疲れている」: 軽い強度から始める、睡眠の質を改善する
- 「天候が悪い」: 室内でできる代替運動を用意しておく
- 「つまらない」: 音楽やポッドキャストを聴きながら行う
- 「効果が感じられない」: 血圧以外の効果(睡眠の質、気分など)にも注目する
血圧管理に役立つフィットネスアプリ
スマートフォンのアプリやウェアラブルデバイスを活用すると、運動の継続や血圧管理に役立ちます。
血圧記録アプリ
- 日々の血圧測定値を記録し、グラフ化してくれるアプリ
- 運動や食事との関連を分析できるものも
- 医師との共有機能があるものが便利
歩数計・活動量計アプリ
- スマートフォン内蔵のセンサーを使って歩数や活動量を記録
- 目標設定や達成度の視覚化機能があるものが多い
- 友人とのランキング機能で励まし合える
運動指導アプリ
- 自宅でできるストレッチや軽い筋トレの動画を提供
- 高血圧の方向けのプログラムがあるものも
- 段階的に強度が上がる設計になっているものが理想的
ウェアラブルデバイスとの連携
- 心拍数モニタリング機能付きのスマートウォッチ
- 運動中の心拍数を確認でき、適切な強度管理に役立つ
- 一部のデバイスでは血圧測定機能を持つものも登場(ただし医療機器としての精度は保証されていない)
おすすめのアプリ・デバイス選びのポイント
- シンプルで使いやすいインターフェース
- 継続的に更新・サポートされている
- データのエクスポート機能(医師との共有に便利)
- プライバシーポリシーがしっかりしている
- 無料版で十分な機能があるもの
注意点
- アプリやデバイスはあくまでサポートツール
- 医療機器ではないものが多いため、正確な血圧測定には医療用血圧計を使用する
- 個人情報・健康情報の取り扱いに注意する
まとめ
運動は高血圧管理において非常に重要な役割を果たします。適切な運動は血圧を下げるだけでなく、全身の健康増進にも繋がります。
この記事のポイント
- 運動には血圧を下げる急性効果と慢性効果がある
- 有酸素運動を中心に、適度な筋力トレーニングを組み合わせるのが効果的
- 高血圧の重症度に応じた運動の選択が大切
- 高血圧の方が避けるべき運動がある
- 継続するための工夫が成功の鍵
血圧が高めの方は、まずは医師に相談した上で、ウォーキングなどの軽い有酸素運動から始めてみましょう。運動は一時的なものではなく、生涯を通じて続けていくものです。無理なく楽しく続けられる方法を見つけることが、長期的な血圧管理の成功につながります。
次回は「高血圧の食事管理|減塩のコツとおすすめの食べ物・レシピ」について解説します。運動と食事の両面から高血圧を管理することで、より効果的に血圧をコントロールできるようになるでしょう。
参考文献
- 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024. 日本高血圧学会, 2024.
- American College of Sports Medicine. ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription, 11th Edition. Wolters Kluwer, 2021.
- Pescatello LS, et al. Exercise for Hypertension: A Prescription Update Integrating Existing Recommendations with Emerging Research. Curr Hypertens Rep. 2015;17(11):87.
- Cornelissen VA, Smart NA. Exercise training for blood pressure: a systematic review and meta-analysis. J Am Heart Assoc. 2013;2(1):e004473.
- Whelton PK, et al. 2017 ACC/AHA/AAPA/ABC/ACPM/AGS/APhA/ASH/ASPC/NMA/PCNA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. J Am Coll Cardiol. 2018;71(19):e127-e248.
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準2013. 厚生労働省, 2013.
監修
山須田彬 高血圧といびきの内科 神保町駅前 院長