閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と肥満の関係、そしてチルゼパチドのOSASへの効果に関して
こんにちは、高血圧といびきの内科神保町駅前 院長の山須田です。
タイトルにあるチルゼパチド(Tirzepatide)は商品名「マンジャロ」として、日本では2型糖尿病治療薬として販売されています。糖尿病治療効果以外にも高い減量効果が知られており、近年の論文では肥満関連疾患への効果が相次いで報告されています。
今回は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と肥満の関係、そしてチルゼパチドのOSASへの効果に関してここ1~2年の論文より引用しつつ解説していきます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)について
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、睡眠中に繰り返される気道閉塞によって無呼吸や低呼吸を引き起こす疾患です。日中の過度な眠気、認知機能低下、心血管リスクの増大といった多面的な健康被害を引き起こします。
OSASの顕著な危険因子のひとつが肥満です。肥満は気道周囲脂肪の蓄積によりOSASを悪化させます。
OSASの原因は肥満だけではありませんが、肥満の解消はOSAS改善に直結すると言っても過言では無いかと思います。
肥満とOSASの関係
肥満はOSASの最も重要な修正可能なリスク因子です。特に中等度から重度のOSASでは肥満との強い相関が認められます。BMIが30kg/m²以上の成人ではOSAの有病率が50%を超えるとされ、肥満の程度AHI(Apnea Hypopnea Index, 無呼吸低呼吸)には明確な正の相関が存在します。
肥満は上気道の構造的狭小化だけでなく、睡眠中の筋緊張の低下、舌の後方移動、咽頭周囲脂肪の蓄積などを通じて、気道閉塞を誘発します。
OSASは夜間の間欠的低酸素から持続的な交感神経優位な状態となり、夜間の血圧上昇やインスリン抵抗性を引き起こします。炎症マーカーのhsCRPや、TNF-α・IL-6といった炎症性サイトカイン上昇を引き起こし、全身の代謝異常を引き起こします。
Anne Briançon-Marjolletらの研究(※1)では、健常者であっても14日間の間欠的低酸素暴露により交感神経優位な状態となり、血中遊離脂肪酸(FFA)上昇およびインスリン抵抗性を来たすことを報告しています。脂肪組織の病的リモデリングを示唆するもので、OSASそのものが2型糖尿病やインスリン抵抗性の独立したリスク因子の可能性が高いことを示しています。
体重減少はOSASの病態改善に直結する治療です。INTERAPNEA試験(※2)では8週間の減量プログラムにより2kmウォーキングテストの所要時間が6-10%短縮し体力スコアが上昇しました。別の1年間の減量介入試験(※3)でも内臓脂肪量や筋肉内脂肪の減少、SpO2・CRP・インスリン抵抗性の改善が見られています。
チルゼパチド(Tirzepatide)の肥満・OSASに対する効果
チルゼパチドは、GLP-1受容体とGIP受容体の両方を刺激する”デュアルインクレチン作動薬”です。
2型糖尿病治療薬として使用されていますが、強力な体重減少効果を発揮します。
SURMOUNT-1試験(※4)では、肥満症(糖尿病予備群含む)患者に対しチルゼパチド5mg/週・10mg/週・15mg/週を176週間投与後、それぞれ体重が12.3%、18.7%、19.7%減少しました。
SURMOUNT-OSA試験(※5, ※6)ではチルゼパチドがOSASそのものに与える効果を二重盲検試験で検証しています。CPAP未使用者、CPAP使用者それぞれに最大耐用量のチルゼパチド10mg/週または15mg/週 52週投与したところ、CPAP未使用者でAHIが20.0、CPAP使用者でAHIが23.8有意に低下しました。また、体重が15~18%減少し、hsCRP・血圧・睡眠QOLスコアの改善が見られました。
チルゼパチドは体重減少を主軸に、インスリン感受性の改善や炎症の軽減を通じてOSASを多方面から改善しているものとみられています。
Lohらの研究(※7)では、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン)やビタミンD3との併用についても触れています。SGLT2阻害薬は単独で心血管・代謝マーカーを改善し、OSAS合併高血圧患者のQOL向上に寄与するとしています(ただしチルゼパチドほど顕著ではなく、AHIの直接的改善は確認されず)。またビタミンD3の併用によりESS(Epworth Sleepiness Scale)、QOL指標、心拍変動(HRV)の安定化が観察されています。
まとめ
チルゼパチドはOSASの病態に関与する肥満・インスリン抵抗性・炎症すべてに対し、多面的効果を発揮することによりOSASを改善します。これはOSASの根本的治療につながるものです。SGLT2阻害薬・ビタミンD3の併用療法も今後の研究次第で臨床応用が期待できるかもしれません。
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<参考文献>
※1「Intermittent hypoxia increases lipid insulin resistance in healthy humans: A randomized crossover trial.」Briançon-Marjollet A, et al. J Sleep Res. 2025 Apr;34(2):e14243.
※2「Weight loss and lifestyle intervention for cardiorespiratory fitness in obstructive sleep apnea: The INTERAPNEA trial.」 Carneiro-Barrera A, et al. Psychol Sport Exerc. 2024 May;72:102614.
※3「Effects of a One-Year Intensified Weight Loss Program on Body Composition Parameters in Patients with Severe Obesity and Obstructive Sleep Apnea (OSA): A Randomized Controlled Trial. 」Miralles-Llumà L, et al. Nutrients. 2024 Dec 10;16(24):4255.
※4「Tirzepatide for Obesity Treatment and Diabetes Prevention. 」Jastreboff AM, et al.N Engl J Med. 2025 Mar 6;392(10):958-971.
※5「Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. 」Malhotra A, et al.N Engl J Med. 2024 Oct 3;391(13):1193-1205.
※6「Tirzepatide for the treatment of obstructive sleep apnea: Rationale, design, and sample baseline characteristics of the SURMOUNT -OSA phase 3 trial.」Malhotra A, et al.Contemp Clin Trials. 2024 Jun;141:107516.
※7「Unveiling the benefits of Vitamin D3 with SGLT-2 inhibitors for hypertensive obese obstructive sleep apnea patients. 」Loh HH, et al.J Transl Med. 2025 Mar 7;23(1):296.