肥満の科学と医療

近年、肥満は治療ができる時代になってきました。肥満治療・メディカルダイエットなどと呼ばれることもあります。
ここでは肥満の科学と医療に関して最新の基礎医学から臨床医学までのエビデンス、研究を集めて解説をします。

基礎科学における知見(遺伝学・内分泌学・腸内細菌・神経科学)

  • 遺伝学: 肥満は遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合った疾患です。                            双生児や家族の研究から、肥満の遺伝率は40~75%にも達し ( Genetics of Obesity in Humans: A Clinical Review – PMC )、単一遺伝子の変異で起こるまれな症候性肥満から、多くの遺伝子が関与する一般的な多因子肥満まで様々です ( Genetics of Obesity in Humans: A Clinical Review – PMC ) ( Genetics of Obesity in Humans: A Clinical Review – PMC )。
  • 既存文書で遺伝の関与が過小評価されている場合は誤りであり、近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)により肥満関連の遺伝子多型が数百種類発見されており ( Genetics and Epigenetics in Obesity: What Do We Know so Far? – PMC )、現在では500を超える肥満関連遺伝子が同定されています ( Genetics of Obesity in Humans: A Clinical Review – PMC )。           したがって、「意志の弱さのみが原因」といった記述があれば最新の知見と照らして不十分です。遺伝的素因により食欲や代謝の調節機構が左右されることが明らかになってきており、文書にもその点を反映すべきです。
  • 内分泌学(ホルモン): 脂肪組織は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、レプチンやアディポネクチンなど多くのアディポカイン(サイトカイン様ホルモン)を分泌して全身の代謝に影響を与えます。                          既存文書に内分泌の観点が不足している場合、重要な知識の抜け漏れです。                        特に視床下部を中心とする摂食調節回路には様々な消化管ホルモンや膵・脂肪由来ホルモンが関与します。食欲抑制に働くペプチドはヒトで約30種類知られていますが、食欲を亢進させるホルモンはグレリンただ1つであり、エネルギーバランスの調整に重要な役割を果たします ( Genetics of Obesity in Humans: A Clinical Review – PMC )。                    文書がこの点に触れていない場合は更新が必要です。                                  また体重減少時にはレプチンの低下やグレリンの増加が起こり、これが体重リバウンドを促すことも最新研究で示されています。このようにホルモンによる恒常性維持機構が肥満の背景にあることを強調する必要があります。
  • 腸内細菌腸内細菌叢(マイクロバイオータ)の乱れも肥満に影響する新たな要因です。                   近年の研究では、肥満者では腸内微生物の多様性がしばしば減少していることが報告されています ( Gut microbiota in obesity – PMC )。                                                      腸内細菌は食物繊維から短鎖脂肪酸などの代謝物を産生し、これらが宿主の代謝や食欲に影響を及ぼすことが分かっています ( Gut microbiota in obesity – PMC )。                                        例えば腸内細菌叢の乱れはエネルギー吸収効率を高めたり、食欲を亢進させるシグナルを誘発することで肥満につながり得ます ( Gut microbiota in obesity – PMC )。                                        既存文書に腸内細菌への言及がない場合、それは最新の知見を反映していないと言えます。                 肥満治療にプロバイオティクスや食物繊維が研究されていることも追記するとよいでしょう。
  • 神経科学: 食欲とエネルギー消費の制御には脳の神経回路が中心的役割を担います。                     古くは視床下部が摂食中枢として知られていましたが、現在では報酬系を含む大脳辺縁系や脳幹も含めた広範なネットワークが食行動に関与することが判明しています ( Acts of appetite: neural circuits governing the appetitive, consummatory, and terminating phases of feeding – PMC )。                                       例えば、高カロリー食への長期曝露は脳内の摂食回路を再配線し、食べ物に対する報酬反応を変化させることが示唆されています ( Acts of appetite: neural circuits governing the appetitive, consummatory, and terminating phases of feeding – PMC )。既存文書で脳の役割が限定的にしか扱われていない場合は不十分です。                          最新の研究では摂食行動の段階(食物の探索、摂取、満腹終了)ごとに異なる脳回路が働くことがわかってきており ( Acts of appetite: neural circuits governing the appetitive, consummatory, and terminating phases of feeding – PMC ) ( Acts of appetite: neural circuits governing the appetitive, consummatory, and terminating phases of feeding – PMC )、肥満の科学には神経科学的視点も不可欠です。

臨床における最新の治療動向(薬物療法・手術療法・生活習慣改善)

公衆衛生上の取り組みと社会的影響

  • 肥満の予防と公衆衛生: 肥満は個人の問題にとどまらず、社会全体で対策すべき公衆衛生上の課題です。            世界的に肥満人口は増加の一途をたどっており、2016年には世界で6億5000万人以上(成人の13%)が肥満と推定されました。更に2030年には全世界で約11億人が肥満になる恐れがあるとの予測もあります ( Gut microbiota in obesity – PMC )。既存文書にこのような疫学動向や将来的な予測が含まれているか確認します。                           もし不足していれば、現状でいかなる国も肥満流行の完全な逆転に成功していないこと (Report: ‘Radical Rethink’ Needed to Tackle Obesity, Hunger, Climate)、したがって環境要因への包括的介入(例えば砂糖飲料税や食品表示の強化、都市計画による運動促進など)が必要と専門家が提言している点 (Report: ‘Radical Rethink’ Needed to Tackle Obesity, Hunger, Climate)を追記すると良いでしょう。肥満は不適切な食環境やライフスタイルの「構造的問題」として捉えられており、世界的な対策(2019年のランセット報告では「グローバル・シンデミック」として肥満・栄養不良・気候変動の複合危機に立ち向かうよう提言 (Report: ‘Radical Rethink’ Needed to Tackle Obesity, Hunger, Climate))が求められています。             既存文書に個人の努力だけでなく政策レベルの取り組みや予防戦略(学校教育や地域の健康施策など)が十分言及されているか精査し、不足があれば補足します。
  • 社会的影響(スティグマと偏見): 肥満に伴う社会的影響として見過ごせないのが偏見や差別(スティグマ)です。       もし文書中にこの点の記載がない場合は重要な抜け漏れです。肥満のある人々は日常的に偏見にさらされることが多く、就労や医療の現場でも不当な扱いを受ける場合があります ( Time to end weight stigma in healthcare – PMC ) ( Time to end weight stigma in healthcare – PMC )。こうした体重スティグマは心理的ストレスやうつを招くだけでなく、健康管理への意欲を減退させ医療受診の回避や過食などの不適応行動を誘発し、かえって健康を悪化させることが明らかになっています ( Time to end weight stigma in healthcare – PMC )。                                      例えば医療従事者による無意識の偏見により、肥満患者が十分な医療サービスを受けられない事例も報告されています ( Time to end weight stigma in healthcare – PMC )。世界保健機関(WHO)も2017年に医療現場での肥満に対する差別根絶を呼びかけており ( Time to end weight stigma in healthcare – PMC )、近年は肥満を適切に「疾病」として扱い偏見を是正する動きが進んでいます。また、肥満がもたらす経済的負担(医療費増大や労働生産性低下)についても、公衆衛生の観点から考慮が必要です。

参考文献

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Genetics of Obesity in Humans: A Clinical Review