脂質異常症

脂質異常症とは

脂質異常症とは、生活習慣病の一つで血液中の脂質(中性脂肪やコレステロールなど)の代謝に異常をきたし基準値から外れた状態のことです。

通常は無症状ですが、未治療で放置すれば動脈硬化が進行し、やがて心筋梗塞・脳卒中・慢性腎不全・認知症といった重大な疾患を引き起こします。また、著明な高TG血症では急性膵炎を引き起こししばしば致命的になる場合があります。

日本における脂質異常症の患者数は令和2年患者調査で401万人と増加傾向ですが、治療を受けていない方が多くいらっしゃるのが現状です。適切なリスク評価と生活習慣の改善を含めた治療が大切です。

脂質異常症の原因

主な原因は過食や運動不足などの生活習慣です。

ただし、遺伝子変異(家族性高コレステロール血症など)や、他の疾患・薬剤(続発性脂質異常症)が原因であるケースもあります。

<続発性脂質異常症を来す主な原因>

高Chol血症高TG血症
甲状腺機能低下症 ネフローゼ症候群 原発性胆汁性胆管炎(PBC) 閉塞性黄疸 糖尿病 クッシング症候群 薬剤(利尿薬・β遮断薬・ステロイド・経口避妊薬・シクロスポリンなど)飲酒 肥満 糖尿病 クッシング症候群 SLE 薬剤(利尿薬・β遮断薬・ステロイド・エストロゲン・レチノイドなど)

脂質異常症の診断

血液検査にて、下記基準に従い診断します。

高LDLコレステロール血症LDL-C≧140mg/dl (120~139mg/dlは境界域)
低HDL-C血症HDL-C<40mg/dl
高TG血症TG≧150mg/dl (非空腹時の場合、TG≧175mh/dl)
高non-HDL-C血症non-HDL-C≧170mg/dl (150~169mg/dlは境界域)
※家族性高コレステロール血症(FH)について LDL受容体やPCSK9などの遺伝子変異が原因でおこる代謝性疾患です。多くはヘテロ接合体(300人に1人)ですが、ごく希にホモ接合体(36万人に1人)の症例があり、顕著な高コレステロール血症を来します。
<成人のFH診断基準>
①未治療時LDL-C≧180mg/dL
②腱黄色腫(手背、肘、膝、アキレス腱などの肥厚)または皮膚結節性黄色腫を認める
③2親等以内の血族がFHあるいは早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満での発症)
①~③のうち、2項目以上を満たすものをFHと診断します。ただし2項目を満たさない場合でも、LDL-C≧250mg/dLの場合、あるいは②と③を満たしLDL-C≧160mg/dLの場合はFHを強く疑います。確定診断は特定の医療機関で遺伝子学的検査を行い診断します。

脂質異常症の治療

治療の基本は生活習慣の是正です。以下の内容に気をつけましょう。

・禁煙 受動喫煙も避けましょう。 ・体重 摂取カロリーを控え、適切な体重(BMI<25)を維持しましょう。 ・食事 少なめ(腹七~八分)にしましょう。よく噛んで食べましょう。     季節の食材、旬のものを食べましょう。     魚介類、緑黄色野菜、海藻類、大豆製品、未精製穀類、ナッツ類をバランスよく摂取しましょう。 脂身の多い肉、加工肉や動物脂、酸化した油を含む食品は避けましょう。 ・節酒 エタノールとして男性20-30mL/日以下、女性10-20mL/日以下が良いです。 ・運動 有酸素運動を30分/日、または180分/週を目標に、無理のない範囲で継続しましょう。

生活習慣の是正で効果不十分な場合や、心血管イベント発症リスクが高い場合は薬物療法を行います。LDL-C・TG・HDL-Cの値や副作用に配慮し、治療薬を選択します。

<主な脂質異常症の治療薬> スタチン:クレストール、リピトール、リバロ、メバロチン、ローコール、リポバス 選択的PPARαモジュレーター:パルモディア、パルモディアXR フィブラート:ベザトールSR、リピディル 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬:ゼチーア オメガ3系多価不飽和脂肪酸:ロトリガ(EPA・DHA)、エパデール(EPA) 配合剤:ロスーゼットLD/HD、アトーゼットLD/HD、リバゼブLD/HD 家族性高コレステロール治療薬:レパーサ、レクビオ(PCSK9阻害薬)、ジャクスタピッド(MTP阻害薬)、エヴキーザ(ANGPTL3阻害薬)等

管理目標について

以下①~③の順でチェックし、管理目標を設定します。LDL-Cの管理目標値達成を最優先します。

①冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の既往がある → 二次予防

②糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)いずれかを有する → 一次予防高リスク

③上記①②いずれもなしの場合 → 久山町研究スコアに基づき、低リスク~高リスクに分ける

 管理区分LDL-Cnon HDL-CHDL-CTG
一次予防低リスク<160<190≧40<150(空腹時) <175(随時)
中リスク<140<170
高リスク<120 <100※<150 <130※
二次予防冠動脈疾患、アテローム血栓性脳梗塞の既往あり<100 <70*<130 <100*

※糖尿病+リスクファクター(末梢動脈疾患(PAD)・細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)・喫煙のいずれか)の場合、LDL-C<100目標を考慮する。

*急性冠症候群、家族性コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患+アテローム血栓性脳梗塞の4病態いずれかを合併する場合、LDL-C<70目標を考慮する。

久山町研究スコア10年間の動脈硬化性 疾患発症リスク分類
40~49歳50~59歳60~69歳70~79歳
0~120~70~12%未満低リスク
13以上8~182~120~72~10%中リスク
19以上13以上8以上10%以上高リスク

医師より患者様へメッセージ

コレステロール・中性脂肪の値が心配な方、健康診断で「要精査・要受診」の方は当院までご相談ください。適切なリスク評価の上で生活習慣の是正のみで十分なのか、薬物療法でリスクを下げた方が良いのか等、ご説明させていただきます。

検診結果や他院での検査結果がございましたら、お手数ですがご持参ください。

皆様の健康的な生活に貢献できるよう、誠意を込めて診療いたします。お気軽にご来院ください。