睡眠時無呼吸症候群と高血圧・心臓病の関係
はじめに
睡眠時無呼吸症候群、特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSA)は、単なる「いびき」や「日中の眠気」にとどまらず、全身に広範な影響を及ぼす疾患です。OSAは単なる睡眠の問題にとどまらず、高血圧・虚血性心疾患・心不全・心房細動などのリスクとなることが分かっています。本記事では、OSAと血圧・心臓病の関係について解説します。
OSAと生活習慣病リスク
OSAの有病率は中年男性の約3~7%、女性の約2~5%とされますが、特に男性の場合は肥満率の増加に伴いさらに高いと推定されています。
重症OSA(一時間あたり30回以上の無呼吸・低呼吸がある)の場合、高血圧・冠動脈疾患・心不全・脳卒中のリスクが健常者と比較して2~3倍高いと報告されています。
OSAの病態
・OSAでは、上気道の閉塞により無呼吸・低呼吸が生じ、血中酸素の低下が繰り返されます。低酸素・再酸素化は血管内皮を損傷し動脈硬化を進める要因になります。
・無呼吸イベント時は交感神経系が賦活化され、心拍数上昇・末梢血管収縮・血圧上昇が起こります。この影響は、夜間だけにとどまらず日中まで続きます。
・高血圧への影響として、OSA患者では日内変動が「non-dipper型」「riser型」となることがあります。このタイプは動脈硬化・脳心血管病リスクが高く注意が必要です。
・OSAは炎症マーカー上昇やインスリン抵抗性悪化、脂質代謝異常を介してさらに脳心血管病リスクを高めます。
OSAと高血圧
夜間に血圧が下がらない、薬を飲んでも血圧が下がりにくい、肥満症・メタボリックシンドロームが合併している場合はOSAが背景にあることが疑われますので、検査が必要です。
中等症以上のOSAがあると、高血圧になるリスクは2~3倍に上昇します。
OSAと心臓病
OSAを放置してはいけない理由は、狭心症・心筋梗塞・心臓病・心房細動といった心疾患、および夜間の突然死の危険性があるからです。
・無呼吸イベントは心筋虚血を誘発します。
・無呼吸時の胸腔内陰圧は心負荷を増加させ、血圧変動や交感神経活性亢進が心不全の悪化を引き起こします。心不全患者のうち約半数近くがOSAを合併していると言われています。
・不整脈、とくに心房細動との関連が指摘されています。OSA患者は健常者と比較して心房細動の有病率・再発率が高く、これは低酸素負荷や交感神経亢進が関与していると考えられています。
・OSAは夜間の心原性突然死のリスクが高く、特に午前0時から6時にかけて起こりやすいと報告されています。
OSAの治療
(1)CPAP療法
寝る時に専用マスクを装着し、気道に空気を送り込むことで無呼吸を防ぐ治療法です。OSAの治療法として第一選択となります(適応がある場合)。夜間低酸素の改善、交感神経活動の抑制、降圧効果(とくに夜間・早朝高血圧に対して)、心不全改善、心房細動再発率の低下など多くの効果が実証されています。
ただし降圧効果についてはやや限定的で、降圧薬の併用が必要となる場合が多いです。
また効果を得るには、十分な使用時間(毎晩4時間以上使用)が必要です。
(2)生活習慣の改善
肥満はOSAと高血圧の共通リスクであり、減量により双方の改善が望めます。
飲酒制限も大切です。
(3)その他
軽症例に対する口腔内装置(スリープスプリント)や外科的治療も選択肢の一つです。ただし、脳心血管病に対する予防効果に関するエビデンスはCPAPに比べて限定的です。
無呼吸かも?と思ったら
・高血圧の薬を飲んでも血圧が下がらない
・夜間や早朝の高血圧
・心房細動がある
・肥満・メタボリックシンドロームに該当する
・昼間の眠気、夜間いびき、中途覚醒がある
このような方は、簡易モニター検査を受けましょう。簡易モニター検査でOSAが疑われる結果が出た場合、精密検査(ポリソムノグラフィー検査)で確定診断することを勧めます。心当たりのある方は、ぜひ高血圧といびきの内科神保町駅前までご相談ください。