不眠症とは?
「なかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「朝早くに目が覚めてしまう」「眠った気がしない」——このような睡眠の問題が続き、日中の眠気・倦怠感・集中力低下といった不調をきたしている状態を不眠症といいます。
日本では成人の約3人に1人が何らかの不眠症状を抱えており、慢性的な不眠症に該当する方は成人の約1割とされています。加齢とともに増加し、女性にやや多い傾向があります。
眠れない夜が数日続く程度であれば、多くは自然に改善します。しかし週3回以上の不眠が3か月以上続く場合は慢性不眠症とされ、背景に別の病気が隠れていることもあるため、一度ご相談ください。
不眠症のタイプ
不眠症は症状の出方によって次の4つに分類されます。複数のタイプが重なることも珍しくありません。
入眠困難
布団に入ってもなかなか寝つけないタイプです。不眠症の中で最も多くみられます。
中途覚醒
眠りについても夜中に何度も目が覚めてしまうタイプです。加齢とともに増加します。
早朝覚醒
予定より2時間以上早く目が覚め、その後眠れないタイプです。高齢の方やうつ病でみられます。
熟眠障害
睡眠時間は足りているはずなのに、眠った満足感が得られないタイプです。
不眠、なぜ治療が必要?
不眠は「つらいけれど命に関わるものではない」と我慢されがちですが、放置すると身体・精神の両面に影響が及びます。
慢性的な不眠は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のリスク上昇と関連することが報告されています。睡眠不足が続くと交感神経の緊張が持続し、夜間の血圧が下がりにくくなることが一因と考えられています。
また、不眠はうつ病の初期症状として現れることが多く、不眠自体がうつ病の発症リスクを高めることも知られています。不眠とうつは相互に悪化させ合う関係にあります。
日中の眠気や集中力低下は、作業効率の低下だけでなく、居眠り運転事故や転倒・転落などの事故の原因にもなります。
寝つきのために飲酒を習慣化すると、耐性がついて量が増え、かえって睡眠の質が悪化します。市販の睡眠改善薬(抗ヒスタミン薬)も長期使用には向きません。自己対処を続ける前に、一度ご相談ください。
こんな方はご相談ください
- 寝つきの悪さ、夜中の目覚めが週3回以上・1か月以上続いている
- 日中の眠気や集中力低下で仕事や生活に支障が出ている
- 市販の睡眠改善薬を長期間使い続けている
- 寝つきのためにお酒を飲む習慣がある
- 他院で処方された睡眠薬を長年飲み続けており、減らしたい
- いびきや無呼吸を指摘されたことがあり、眠りの浅さも気になる
- 血圧が高めで、あわせて眠りの質も気になっている
- 交代勤務や在宅勤務で生活リズムが乱れている
高血圧・いびき(SAS)との関係
当院が不眠症の診療に力を入れているのは、不眠が単独の問題ではなく、高血圧や睡眠時無呼吸症候群と深く関わっているためです。
不眠と高血圧
不眠のある方は高血圧を合併しやすいことが疫学的に示されています。また、高血圧の治療中の方が不眠を抱えていると、血圧のコントロールが不安定になることがあります。
不眠と睡眠時無呼吸症候群(SAS)
「眠れない」という訴えの背景に、実はSASが隠れているケースがあります。SASでは無呼吸のたびに脳が覚醒するため、ご本人は「夜中に何度も目が覚める」「寝た気がしない」と感じます。この場合、睡眠薬を飲んでも改善しないばかりか、睡眠薬の種類によっては筋肉がゆるんで気道が狭くなり、無呼吸を悪化させることがあります。
そのため当院では、不眠を訴える患者様に対しても、いびきや日中の眠気の有無を確認し、必要に応じてSASの検査をご案内しています。
当院は高血圧・いびき(睡眠時無呼吸症候群)・不眠を「睡眠と生活習慣病」として一体で診ています。複数の症状に心当たりのある方も、まとめてご相談いただけます。
検査と診断
問診
症状の経過、就寝・起床時刻、日中の状態、生活習慣(カフェイン・飲酒・喫煙・運動・スマートフォンの使用)、服用中のお薬、ストレスの状況などを詳しくお伺いします。
質問票による評価
不眠の程度を客観的に評価するため、アテネ不眠尺度(AIS)などの質問票を用いる場合があります。
睡眠日誌
2週間ほど就寝・起床の記録をつけていただくことで、実際の睡眠パターンが把握でき、治療方針の決定に役立ちます。
血液検査
不眠の背景に、甲状腺機能の異常や貧血などの身体疾患が隠れていることがあります。必要に応じて血液検査を行います。
睡眠時無呼吸症候群の検査
いびきや日中の強い眠気を伴う場合は、SASの簡易検査をご案内します。当院ではご自宅で実施することが可能です(保険適用あり)。
治療法
不眠症の治療は「睡眠薬を出して終わり」ではありません。生活習慣の見直しを土台に、必要な方に薬物療法を組み合わせるのが基本です。
1. 睡眠衛生指導
まず取り組んでいただくのが、睡眠を妨げている生活習慣の修正です。詳細は後述の「睡眠を改善する生活習慣」をご覧ください。多くの方はここだけでも改善がみられます。
2. 認知行動療法的アプローチ
「眠らなければ」という緊張がかえって不眠を悪化させることがあります。寝床で過ごす時間を適正化する、眠くなってから寝床に入るといった行動面の調整を、問診の中でご提案します。
3. 薬物療法
睡眠薬にはいくつかの種類があり、不眠のタイプ・年齢・併存疾患に応じて選択します。当院では、依存性の少ない薬剤を優先し、漫然と長期処方しない方針で処方しています。
- オレキシン受容体拮抗薬:覚醒を維持する物質の働きを抑え、自然な眠気を促します。依存性が少なく、近年よく用いられます。
- メラトニン受容体作動薬:体内時計に働きかけて睡眠リズムを整えます。効果は穏やかですが安全性が高く、高齢の方にも使いやすい薬です。
- 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬:寝つきの改善に用いられます。
- ベンゾジアゼピン系睡眠薬:効果は確実ですが、依存性・ふらつき・持ち越し効果のリスクがあるため、当院では慎重に使用します。
- 漢方薬:体質や随伴症状に応じて用いる場合があります。
睡眠薬を減らしたい方へ
長年睡眠薬を服用されていて減量・中止を希望される方のご相談も承っています。自己判断での急な中止は、かえって不眠が悪化する(反跳性不眠)ことがあるため、時間をかけて段階的に減らしていく方法をご提案します。
不眠症の治療、最初がうまくいかなくても大丈夫です
「睡眠薬を試したけどよく眠れない」「カウンセリング(認知行動療法)を受けたけど改善しない」——そんなとき、次にどうすればいいのか不安になりますよね。実は、これを科学的に調べた大規模な研究があります。
研究でわかったこと
2020年に発表されたカナダと米国の研究チームによる調査では、211人の不眠症の患者さんを対象に、まず「睡眠薬(ゾルピデム)」か「行動療法(就寝・起床時刻を整える、寝床を睡眠だけに使うなど、生活習慣に働きかける治療法)」のどちらかを6週間試していただきました。結果は、どちらの治療法も約半数の方に効果があったという、ほぼ互角の成績でした。
注目すべきは、そこで改善しなかった方に「もう一つ別の治療」を追加したときの結果です。行動療法で効果が出なかった方が薬物療法や別のカウンセリング(認知療法)を追加したところ、改善する方の割合が明らかに増えました。
最初の治療で満足のいく結果が出なくても、別の治療を追加することで多くの方が改善している
ただし、追加治療をしても全員が完全に良くなるわけではなく、しっかり治った(寛解した)といえる方はどの組み合わせでもおよそ半数程度でした。だからこそ、「今の治療で効果が薄い」と感じたら、我慢せずに再診でご相談ください。
長期間追跡した研究からわかること
別の研究では、認知行動療法と睡眠薬を組み合わせて治療した患者さんたちを、1年後・2年後まで追跡調査しています。治療終了から半年後の改善は1年後・2年後もしっかり維持されていた方が多く、特に途中から睡眠薬を少しずつ減らしていったグループのほうが、薬を続けたグループより長期的な成績が良好でした。
これは、睡眠薬は治療の初期に助けになるものの、長く使い続けるより、体調を見ながら少しずつ減らしていくほうが、結果的に良い眠りが長続きしやすいということを示しています。
まとめ:再診が大切な理由
- 最初の治療で効果が乏しくても、それで終わりではありません。次の一手(薬の変更、カウンセリングの追加など)で改善する可能性が十分にあります。
- 睡眠薬を使っている方は、定期的な診察の中で「そろそろ減らせるか」を医師と一緒に確認していくことが、長期的に良い睡眠を保つコツです。
- 不眠の治療は一度で終わるものではなく、経過を見ながら調整していく治療です。
費用について
3割負担の方で数千円~1万円程度が目安。お薬代も内容によりますが、数千円から5000円程度となります。
睡眠を改善する生活習慣
起床時刻を一定にする
就寝時刻より起床時刻を揃えるほうが、体内時計は安定します。休日の寝坊は、平日との差を2時間以内に抑えるのが目安です。
朝の光を浴びる
起床後に日光を浴びると体内時計がリセットされ、その約14~16時間後に自然な眠気が訪れます。
カフェイン・アルコール・喫煙
カフェインの効果は数時間持続するため、夕方以降は控えめに。アルコールは寝つきを良くするように感じますが、睡眠の後半を浅くし、中途覚醒の原因になります。ニコチンにも覚醒作用があります。
就寝前のスマートフォン・PC
画面の光と情報による刺激が入眠を妨げます。就寝1時間前からは控えるのが理想です。
適度な運動
夕方の軽い運動は入眠を助けます。ただし就寝直前の激しい運動は逆効果です。
入浴
就寝の1~2時間前の入浴で深部体温がいったん上がり、その後下がる過程で眠気が生じます。
眠れないときは寝床から出る
20分ほど眠れないときは、いったん寝床を出て静かに過ごし、眠気が来てから戻るほうが、寝床で悶々とするより効果的です。
昼寝
15時までに20~30分以内であれば、日中の眠気対策として有効です。それ以上は夜間の睡眠に影響します。
医師より患者様へメッセージ
眠れないという悩みは周囲に理解されにくく、お一人で抱え込まれている方が少なくありません。「歳のせいだから」「これくらいで受診するのは大げさだ」と我慢される必要はありません。
不眠の原因は、生活習慣、ストレス、身体の病気、服用中のお薬、そして睡眠時無呼吸症候群など多岐にわたります。原因によって対応は異なりますので、まずはお話を丁寧にお伺いすることから始めます。
当院は高血圧と睡眠を専門としており、不眠の背景にある生活習慣病やいびきの問題まで含めて診ることができます。健康診断の結果や、他院で処方されているお薬の情報(お薬手帳)がありましたら、ご持参ください。
睡眠薬に頼りきりにならない形での改善を、一緒に目指していきましょう。
上記の症状に当てはまる方は、当院へご相談ください
最新の研究結果
・治療がうまくいかないとき、次に何をすべきか(SMART試験)「Effectiveness of Sequential Psychological and Medication Therapies for Insomnia Disorder: A Randomized Clinical Trial」
JAMA Psychiatry. 2020;77(11):1107-1115. doi:10.1001/jamapsychiatry.2020.1767
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2767697
ケベック大学附属精神保健研究所(カナダ)およびNational Jewish Health(米国コロラド州)の2施設による研究。2012年8月~2017年7月に登録された慢性不眠症の成人211例(女性132例、平均年齢45.6±14.9歳、不安障害またはうつ病の併存74例を含む)を対象に、逐次多重割り付けランダム化試験(SMART)を行った。
デザイン:第1段階として行動療法(BT、104例)またはゾルピデム(107例)に割り付け、6週間実施。非寛解例には第2段階として、薬物療法(ゾルピデムまたはトラゾドン)あるいは心理療法(行動療法または認知療法)を6週間追加した。
結果:第1段階では、行動療法群とゾルピデム群で反応率(45.5% vs 49.7%)・寛解率(38.0% vs 30.3%)に有意差はみられなかった。
第2段階では、行動療法の非寛解者にゾルピデムを追加すると反応率が40.6%→62.7%、認知療法を追加すると50.1%→68.2%へ有意に上昇した。一方、ゾルピデムの非寛解者への追加治療では反応率の有意な変化はみられなかった。
寛解率では、行動療法→ゾルピデムで38.1%→55.9%、ゾルピデム→トラゾドンで31.4%→49.4%と、4つの治療シーケンスのうち2つで有意な改善が確認された。
結論:行動療法とゾルピデムは同等の反応率・寛解率を示し、初期治療で寛解しなかった患者に第2の治療を追加することには上乗せ効果がある。ただし逐次治療後の寛解率はいずれの群もおおむね50%前後にとどまるため、初回治療で反応が乏しい患者をどの第2治療に振り分けるかを見極めることが治療成績向上の鍵となる。
・治療効果は1年後・2年後も続くのか「Long-Term Maintenance of Therapeutic Gains Associated With Cognitive-Behavioral Therapy for Insomnia Delivered Alone or Combined With Zolpidem」
Sleep. 2017;40(3):zsx002. doi:10.1093/sleep/zsx002
https://academic.oup.com/sleep/article/40/3/zsx002/2962427
慢性不眠症の成人160例を対象とした長期追跡研究。
デザイン:6週間の急性期治療(認知行動療法単独、または認知行動療法+毎晩ゾルピデム)を行った後、6か月間の拡張期治療(認知行動療法継続/追加治療なし/認知行動療法+頓用ゾルピデム/認知行動療法+ゾルピデム漸減の4群)に再ランダム化し、12か月・24か月時点で追跡した。
結果:治療終了6か月後に得られた臨床的改善は4群すべてで良好に維持され、不眠症の寛解率は12か月時点で48~74%、24か月時点で44~63%であった。
拡張期にゾルピデムを漸減した群は、頓用で継続した群より有意に良好な結果を示した。
睡眠日誌の指標(睡眠潜時・中途覚醒時間など)の改善幅は4群で同程度だったが、ゾルピデム漸減群でわずかに優れる傾向がみられた。
拡張期に認知行動療法を継続しても、最初の6週間で得られた改善を上回る長期的な上乗せ効果は認められなかった。
結論:薬物療法と認知行動療法の併用は治療の立ち上がりを早めるが、長期的な安定にはゾルピデムの計画的な漸減・中止がむしろ有利であることが示された。再診のたびに減薬計画を見直し、認知行動療法と並行して漸減していく方針を支持するデータである。
・(参考)同一コホートの中間報告「Cognitive Behavioral Therapy, Singly and Combined With Medication, for Persistent Insomnia: A Randomized Controlled Trial」
JAMA. 2009;301(19):2005-2015.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/183931
上記Sleep 2017論文と同一コホート(カナダの大学病院睡眠センターで2002年1月~2005年4月に治療された持続性不眠症の成人160例)の中間報告。
結果:急性期6週間の時点では、認知行動療法単独群と認知行動療法+ゾルピデム併用群で反応率(60% [45/75] vs 61% [45/74])・寛解率(39% [29/75] vs 44% [33/74])が同程度であった。しかし6か月の拡張期治療および6か月のフォローアップ期間では、併用療法群のほうが高い寛解率(56% vs 43%)を示した。
最も長期成績が良好だったのは、併用療法で開始してその後認知行動療法単独へ移行した群であり、拡張期にゾルピデムを継続した群と比べ有意に高い寛解率(68% [20/30] vs 42% [12/29])を示した。


