高血圧や糖尿病で通院されている方に、私たちは食事と運動のお話をよくします。しかし実は、もうひとつ数値を大きく左右する生活習慣があります。睡眠です。
「薬もきちんと飲んで、食事にも気をつけているのに、血圧(血糖)がなかなか下がらない」——そんな方の話をよく伺うと、慢性的な睡眠不足や不眠を抱えていることが少なくありません。
この記事では、睡眠と生活習慣病がどのように影響し合っているのか、そしてなぜ両方を一緒に治療することが大切なのかをご説明します。
睡眠不足が血圧を上げる仕組み
本来、血圧は夜間の睡眠中に日中より10〜20%ほど下がります。睡眠は、心臓と血管が唯一まとまった休息を取れる時間です。
ところが、睡眠時間が短かったり、眠りが浅く夜中に何度も目が覚めたりすると、体を緊張させる交感神経が夜間も働き続け、血圧が下がるべき時間に下がらなくなります。夜間に血圧が下がらない状態が続くと、心臓や血管への負担が蓄積し、動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中のリスク上昇につながることが知られています。
実際、睡眠時間が慢性的に6時間を下回る人では、高血圧の発症リスクが高まることが複数の研究で報告されています。
また、「降圧薬を飲んでいるのに血圧が下がりにくい」場合、後述する睡眠時無呼吸症候群が隠れていることがあり、これは治療可能な原因として見逃せません。
睡眠不足が血糖を上げる仕組み
睡眠と血糖の関係も、近年よくわかってきました。
睡眠が不足すると、血糖を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなります(インスリン抵抗性)。さらに、ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌が増え、血糖を上げる方向に働きます。
加えて、寝不足の翌日は食欲を増すホルモンが増え、満腹を感じるホルモンが減ることがわかっています。「寝不足の日ほど、甘いものや揚げ物が食べたくなる」のは意志の弱さではなく、ホルモンの仕業です。睡眠不足は、血糖そのものにも、食行動にも、二重に不利に働くのです。
糖尿病の方では、睡眠の量・質の低下がHbA1cの悪化と関連することも報告されています。
逆もまた然り – 生活習慣病が睡眠を悪くする
やっかいなことに、影響は一方通行ではありません。
- 糖尿病:血糖が高い状態が続くと尿量が増え、夜間のトイレ(夜間頻尿)で睡眠が分断されます。神経障害による足のしびれ・痛みが寝つきを妨げることもあります。
- 高血圧・肥満:肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子です。睡眠中に呼吸が止まるたびに脳が覚醒し、深い睡眠が取れなくなります。いびき・日中の強い眠気・起床時の頭痛がある方は要注意です。
- 薬の影響:一部の治療薬が睡眠に影響することもあります(自己判断での中断は危険ですので、必ずご相談ください)。
つまり、「生活習慣病が睡眠を悪くし、悪い睡眠が生活習慣病を悪くする」という悪循環が成立してしまうのです。この循環は、どちらか片方だけを治療していてもなかなか断ち切れません。
だからこそ「一緒に診る」- 内科で不眠を診療する意味
当院では、高血圧・糖尿病などの生活習慣病の診療と、睡眠の診療を一体のものとして行っています。
通院中の方であれば、いつもの診察の中で、睡眠についてもそのままご相談いただけます。改めて別の病院を探したり、精神科を受診したりする必要はありません。
診察では、次のような視点で睡眠を評価します。
- 睡眠時間・寝つき・夜中の覚醒の状況
- 夜間頻尿の有無とその原因(血糖コントロール・前立腺・利尿薬の服用時間など)
- いびき・無呼吸の指摘の有無(必要に応じて睡眠時無呼吸の検査をご案内します)
- カフェイン・飲酒・就寝前の習慣
そのうえで、生活の工夫だけで改善が見込めるのか、お薬による治療が必要かを判断します。お薬を使う場合も、ふらつき・転倒のリスクが少なく、依存性の少ない新しいタイプの睡眠薬を中心に、年齢や他のお薬との飲み合わせを考慮して処方します。
今日からできる、数値のための睡眠習慣
生活習慣病の改善という観点から、特に効果が期待できるポイントを挙げます。
- 就寝・起床時間をそろえる:体内時計の乱れは血圧・血糖の日内リズムも乱します。まず起床時間を一定にすることから始めましょう。
- 睡眠時間を6時間以上確保する:「削れるのは睡眠くらい」という発想は、長期的には数値と医療費に跳ね返ってきます。
- 寝酒をやめる:アルコールは眠りを浅くするうえ、血圧・血糖・中性脂肪のいずれにも不利です。
- 夕方以降のカフェインを控える:コーヒー・緑茶・エナジードリンクは午後3時くらいまでを目安に。
- 夜間のトイレが多い方は我慢せず相談する:背景に血糖コントロールの問題や他の疾患が隠れていることがあります。
まとめ – 睡眠は「第3の治療」
高血圧・糖尿病の治療というと食事と運動が二本柱とされますが、睡眠はそれに並ぶ第3の柱です。逆にいえば、睡眠を整えることは、食事制限や運動のように「頑張る」ことなく数値の改善が期待できる、取り組みやすい治療でもあります。
- 生活習慣病で通院中だが、実はよく眠れていない
- 血圧・血糖が思うように下がらない
- 家族にいびきや無呼吸を指摘されている
こうした方は、次回の診察時、あるいは受診の際にぜひ睡眠のこともお聞かせください。


