「布団に入った途端、仕事のことが頭の中をぐるぐる回り始める」
「明日のプレゼンが気になって、夜中に何度も時計を見てしまう」
「疲れているはずなのに、目が冴えて眠れない」
こうした経験は、働く方なら誰しも一度はあるのではないでしょうか。一時的なものであれば心配いりませんが、眠れない日が週の半分以上、それが1か月近く続いているようであれば、それは「頑張りが足りない」のでも「気の持ちよう」でもなく、治療の対象となる不眠症のサインかもしれません。
神保町・お茶の水・九段下エリアはオフィスが集まる街です。当院にも「ストレスで眠れない」というご相談で来院される働く世代の方が多くいらっしゃいます。この記事では、ストレス性の不眠がなぜ起こるのか、そして内科で何ができるのかをご説明します。
なぜストレスがあると眠れなくなるのか
人の体には、活動時に働く「交感神経」と、休息時に働く「副交感神経」があります。本来、夜になると副交感神経が優位になり、心拍数や体温が下がって自然に眠気が訪れます。
ところが、強いストレスや心配ごとを抱えていると、夜になっても交感神経が高ぶったままになります。いわば、体が「戦闘モード」のまま布団に入っている状態です。これでは、どれだけ疲れていても脳は休息に入れません。
さらにやっかいなのは、不眠が続くと「今夜も眠れないのではないか」という不安自体が新たなストレスになることです。布団に入ること自体が緊張の引き金になり、「眠ろうと頑張るほど眠れなくなる」悪循環が生まれます。この段階まで進むと、当初のストレス要因が解消されても不眠だけが残ることが少なくありません。
働く人の不眠に多いパターン
診察でよく伺うのは、次のようなパターンです。
- 寝つけないタイプ(入眠困難):布団の中で仕事の段取りや失敗を反芻してしまう。若い世代・中堅世代に多い訴えです。
- 夜中や早朝に目が覚めるタイプ:午前3〜4時に目が覚めて、そのまま仕事のことを考え続けてしまう。責任の重い立場の方に目立ちます。
- 休日に寝だめをするタイプ:平日の睡眠不足を週末に取り返そうとして生活リズムが崩れ、日曜夜に眠れず月曜がつらい――――という悪循環に陥っているケースです。
また、「眠気覚ましのコーヒーが1日5杯以上」「寝つくためにお酒を飲む」といった対処が、かえって睡眠を悪化させていることもよくあります。特に寝酒は、寝つきを良くする一方で睡眠の後半を浅くし、夜中の覚醒を増やすことがわかっています。
放置するとどうなるか ー 不眠は仕事のパフォーマンスと健康を削る
不眠が続くと、日中の集中力・判断力・記憶力が低下します。「会議中に頭が働かない」「単純なミスが増えた」と感じている方は、能力の問題ではなく睡眠の問題かもしれません。
さらに、慢性的な睡眠不足は高血圧・糖尿病・肥満などの生活習慣病のリスクを高めることが多くの研究で示されています。また、不眠はうつ病の入り口になることもあり、「眠れない」という症状は心身からの重要な警告サインといえます。
「忙しいから仕方ない」と我慢を続けるのではなく、症状が固定化する前に手を打つことが、結果として仕事のパフォーマンスを守ることにつながります。
「眠れないくらいで病院?」ー 内科で相談してよい理由
眠れないとき、何科に行けばよいか迷う方は多いと思います。「精神科や心療内科は敷居が高い」と感じて、受診自体をためらってしまう方も少なくありません。
不眠の相談は、内科で問題ありません。 むしろ内科から始めるメリットがあります。
第一に、不眠の陰に身体の病気が隠れていることがあるためです。いびきを伴う睡眠時無呼吸症候群、甲状腺の異常、夜間頻尿、逆流性食道炎などは、いずれもストレスと関係なく睡眠を妨げます。内科では必要に応じて検査を行い、こうした原因を確認できます。
第二に、生活習慣病と睡眠をまとめて診られることです。健康診断で血圧や血糖を指摘されている方は、不眠とあわせて診療することで、双方の改善が期待できます。
そして診察の結果、うつ病など専門的な治療が必要と判断される場合には、適切な医療機関へ責任を持ってご紹介します。「まずどこに相談すればいいかわからない」という段階の入り口として、内科をご利用ください。
内科でできる治療 ー 我慢でも根性でもなく
1. 睡眠を妨げている要因の整理
問診で、睡眠の状態だけでなく、勤務時間、通勤、カフェインや飲酒の習慣、就寝前の過ごし方を伺い、改善できるポイントを一緒に探します。「帰宅が遅い」「接待が多い」など、働く方の現実的な制約をふまえて、実行可能な範囲でご提案します。
2. 依存性の少ないお薬による治療
生活の工夫だけでは眠れない状態が続く場合、お薬の力を借りて悪循環を断ち切ることも有効な選択肢です。
「睡眠薬はクセになりそうで怖い」という声をよくいただきますが、現在は、自然な眠気の仕組みに働きかける依存性の少ないタイプの睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬など)が治療の中心になっています。 当院でも、こうした新しいタイプのお薬を第一選択とし、翌朝への持ち越しや日中の眠気にも配慮しながら処方しています。
お薬はゴールではなく、崩れた睡眠のリズムを立て直すための「足場」です。睡眠が安定してきたら、減薬・中止を見据えて診療します。詳しくは不眠症ページの治療の項目をご覧ください。
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、受診をおすすめします。
- 週3日以上眠れない状態が、1か月程度続いている
- 日中の眠気・だるさ・集中力低下で仕事に支障が出ている
- 寝酒や市販の睡眠改善薬に頼る日が増えている
- 「眠れないかもしれない」と考えると夜が憂うつになる
当院は神保町駅からすぐの立地で、お仕事の前後にもご来院いただけます。「眠れない」は我慢するものではなく、治療できる症状です。ひとりで抱え込まず、お気軽にご相談ください。


